クリニカルアナトミーラボ(CAL)の役割
1.解剖の目的
今日、目覚ましい進歩発展を続けております医学は、多くの病気の治療とその予防に貢献し、人々の健康保持の増進と寿命の延長をもたらしております。医学が人類の福祉の向上に果たしているこのような役割は、今後も益々その重要性を増すことと思います。医科系の大学は、このような医学を支えてゆく立派な医師や医学者の養成に絶えざる努力を傾注いたしております。
この養成のためには、医科系の大学が医学生および医師に対して優れた医学教育を行い、またその教育を基盤に優れた医学研究を行う機会を医師に充分に付与することが必要不可欠のことであります。
このような医学教育、医学研究を支えるものとして、当解剖学教室が行います「正常解剖」があります。正常解剖とは身体の正常な構造を明らかにする解剖のことを意味します。
医学生にとって人体の正しい基礎的構造を観察し、理解することは医師となる基本的条件であり、また将来医師となるための倫理観を養ううえにおいて非常に重要な機会となっております。
また、医師とりわけ外科系医師にとって解剖学の知識が治療を行っていく上で最重要の基礎知識である事は言うにおよびません。しかし、近年では医療技術の高度化や内視鏡などの医療機器の急速な進歩に伴い、医師はさらに詳細な臨床的な解剖学的知識、および高度な検査手技、手術手技が要求され、その上解剖学的研究を行うことによって、より安全で侵襲の少ない治療法の開発が求められる時代となってまいりました。これらの要求を満たすためには、これまで以上に医師に対し技術の習得も含めた高度の解剖学教育を行うことと、優れた研究を行う機会を充分に与えることが大学の大きな使命となってきております。
以上のような考えに基づき、当解剖学教室におきましては、解剖で得られた成果を医学および社会に還元し、医学、医療の発展に大きく貢献するために、医学生の教育のための解剖のみならず、医師に対しての教育および研究のための解剖にも力を注いでおり、解剖学教室が中心となり、当大学におきましては医学教育統轄センターの下に臨床各科の医師が教育・研究のために解剖できる施設 " クリニカルアナトミーラボ " が設立(2007年)されました。このことはご献体された御意志に沿うものであると考えております。
生前に医師も解剖することを承諾された方で、死後、ご遺族のご了解も得られたご献体に対して、当解剖学教室では医学生に対してみならず、医師の教育および研究のためにもこの正常解剖を行います。
2.研究のための解剖に関する情報開示の必要性
以上に述べた目的の中で医師(医学生)が研究目的で解剖を行う場合、長年「死体解剖保存法」(昭和24年制定)という法律に則って行われて参りました。この法律には医学教育を目的とする解剖実習以外の研修などに遺体を利用することについて明確な指針などはなく、たとえ医療上の有用性が認められる研修などであっても、常にその違法性が問われる可能性が否定できませんでした。
近年、日常臨床の現場において手術手技などの高度の医療技術の訓練と習得が困難になりつつある現状を踏まえて、現行の法制度のもとでの遺体の卒後教育への利用の可能性を模索するために平成24年に日本外科学会と日本解剖学会が「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」を公開し違法性を問われない遺体の利用とはどういうものかを明確に指針として示しました。今般さらに、ご遺体を用いた研究に関しましては、平成26年に文部科学省および厚生労働省から出されました「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従って実施されることとなりました。 そこで、この倫理指針に対する日本解剖学会の対応として、「解剖体を用いた研究についての考え方と実施に関するガイドライン」が発表され、「献体者の生前の包括的同意や献体時の遺族による同意(但し献体者に遺族が無い場合はその同意を要しない)を得ていることを前提として、当該研究に関する情報提供および拒否機会を保障していることを研究実施の要件とする。なお情報提供および拒否機会の保障については、当該教室等のウェブサイトに研究内容を示し、使用を拒否したい研究があった場合には遺族等がその旨を申し出ることができる窓口を設けるなどの対応が考えられる。」と示されました。
当大学クリニカルアナトミーラボにおきましても、解剖体を用いた研究については、今後とも上記の法律、指針、学会のガイドラインに則って進めてまいる所存です。
3.解剖体を用いた研究の開示
以上のように当大学におきましては、ご献体された方の解剖は医学生および医師への教育の他に、研究目的でも行っております。献体されたお体を対象とした医学研究で、現在クリニカルアナトミーラボおよび解剖学教室で行われており倫理委員会で承認され実施されているものは以下の通りです。
なお、これらの研究結果を学会や論文発表等に使用することがありますが,個人が特定されることのないように十分に配慮して行います。ご献体下さったお体が必ずしも以下の研究に該当するとは限りませんが、ご自身やご家族のご献体の趣旨にそぐわないと思われる研究項目がございましたら解剖学教室の下記担当者まで書面にてお申し出ください。また、以下の研究についてのご質問等もございましたら下記までお問い合わせ下さい。
お問い合わせ・ご連絡先
〒160-8582
東京都新宿区信濃町35 慶應義塾大学医学部解剖学教室
高詰 佳史
電話:03-3353-1211 内線:62605